ロボットスーツにかける思い 山海嘉之教授

山海教授は2004年6月にCYBERDYNE社を設立しました。『ロボットスーツ』という未知のものを作り出した山海教授。
『ロボットスーツ』開発のきっかけとCYBERDYNE社設立までの道のり、そして山海教授の描く未来像についてインタビューしました。

TIME LINE

TIME LINE

1968

1968

小学三年生の山海教授

小学三年生の山海教授

『ロボットスーツ』を作るきっかけはなんだったのですか?

小学校三年生のとき、私は一冊の本を手にしました。本の題名は『I robot』。そこに登場するのは、博士と博士が次々と作り出すロボットたち。幼い私の目には科学者や博士はなんでも生み出す魔法使いのように映り、また彼らは勧善懲悪でいつも人のためになることをしてくれていました。「かっこいい!!」私はそう思い、将来は博士のようなロボットを作る科学者になるのだ、と心に決めたのです。この本を読んだ私はその後、自分の部屋にこもり、怪しい実験を繰り返す日々を過ごしていました。小学校を卒業する頃には、特に電子工学などの分野の知識は達人級と言っていい程になっていました。それに加え幼い私は、アニメ『サイボーグ009』にも多大なる影響を受けました。そして現在ではロボットとサイボーグ両方の特徴を併せ持った『ロボットスーツ』の開発に力を注いでいるのです。

1975

1975

高校時代

高校時代

なぜ「ロボット」ではなく『ロボットスーツ』なのですか?

私は常に、人間とテクノロジーの関係について考えてきました。人間は誕生してから衰え続けるものであり、これは避けられません。しかし、その限りある時間をいかに意義のあるものにするかはテクノロジーの有無で大きく変わってくると思います。テクノロジーが人間を支えることにより人間とテクノロジーの関係をより良いものにできるのではないかと考えました。ところが人間の体は不思議なもので、どれほど素晴らしいテクノロジーであっても、一歩皮膚の中に入ってしまうと生体防御システムがテクノロジーを拒否します。皮膚の外か内か。これが大きな境界線であることに私は気づきました。そこで私はテクノロジーを、境界面である皮膚に密着させることを試みました。これが『ロボットスーツ』なのです。

1987

1987

博士論文に追われる山海教授

博士論文に追われる
山海教授

『ロボットスーツ』の仕組みについて教えてください。

この『ロボットスーツ』は、人間の脳が筋骨格系を動かそうとするときに流れる微弱な生体電気信号を皮膚表面で検出し、その動きをサポートするために『ロボットスーツ』が動く、という仕組みになっています。そして密着した『ロボットスーツ』が人間の筋骨格系を動かし、動いた筋骨格系から「動いた」という情報が脳へと返ってくるのです。この人間とロボット・情報系のインタラクティブなスパイラルループこそが、次代を開拓するための核となるものだと考えています。

1998

1998

アメリカにてド・ベイキー教授と

アメリカにて
ド・ベイキー教授と
(心臓外科)

『HAL』誕生までには長い道のりがあったのではないですか。

そうですね。この人間とテクノロジーが一体となったサイクルを実現するには、幾多の困難を乗り越える必要がありました。脳にとって体は操る道具でありまたセンサーでもあるので、ここに『ロボットスーツ』という違った状態が加わると人間は違和感を覚えます。これらは人間の動きや心理に大きな影響を与えます。当然のことながら、人間が装着するものなので小型化、軽量化も大きな課題でしたし、個人差も考慮しなければならない要素でした。これだけのことを試みるには工学の知識だけでは不十分で、行動科学、脳神経科学、生理学、心理学など、多岐にわたる分野の知識を得る必要がありました。また、実際に『ロボットスーツ』が出来上がってもそれを世の中で役立たせようとすると、法の整備や倫理、安全性も重要になります。このように様々な分野が融合複合した包括的な学術体系が必要だと私は強く感じました。私はこの新しい学術体系を『サイバニクス』と命名し、確立することに成功しました。現在ではこの『サイバニクス』という学術領域の国際拠点として採択されるまでになりました。かくして、休みなく続けた研究の結果『ロボットスーツHAL』が出来上がったのです。

1998

1998

アメリカ・ベイラー医科大学にて研究室メンバーと

アメリカ・ベイラー医科大学
にて研究室メンバーと

今後『HAL』はどのように活躍していくのでしょう?

現在、福祉・介護の場での実用化に向けて『HAL』の量産への体制が整いつつあります。福祉・介護分野では、自立動作支援、介護支援などで応用が考えられます。過酷な状況下で作業する人をサポートするにも応用が考えられますし、少子高齢化により労働者の平均年齢が高くなっていくことが懸念されていますが、そこを『ロボットスーツ』などテクノロジーでサポートすることも十分可能であると考えられます。また、生きていく上で、家族や回りの人のために働くことは必要ですが、その他に楽しむことも重要な要素のひとつです。重作業支援、エンターテイメント、またレスキュー活動支援など多くの場で『HAL』が活躍することが期待されます。
工学や医学は人の役に立ってこそ重要な意味があるのだと思います。最先端の技術を本当に必要な方々にいち早く提供し、心ある科学技術により未来を開拓していく。それが私の向かうところであり、存在意義なのです。私は、より多くの人が喜んでくれるような技術を開発し、誰も見たことのない未来の世界を創造していきたいのです。

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